波打ち際のことを専門用語では遡上波帯(そじょうはたい)といいます。遡上波帯には、波遊びをするナミノコガイ(コラム19)や甲殻類のヒメスナホリムシ、ナミノリソコエビといった、波の行き来する環境に適応した特有の生物が生息していることが知られています。
時折砂浜に打ち上がっている海の泡にも注目してみましょう。日本海側では冬の風物詩として「波の花」と呼ばれる海泡が吹き寄せられる現象が知られています。この泡は荒れた海により植物プランクトン(ケイソウ類)が破壊され、体内滲出物がメレンゲのようにかき混ぜられること、また滲出物の効果により海水の表面張力が低下することで生まれると考えられています。
海泡は一見するとただの泡ですが、実は各種生物の幼生の生息場所として、また砂浜の栄養源や砂浜に生息する生物の飼料としても重要な役割を担っていると考えられています。
視点を変えると、波打ち際は渚(なぎさ)、汀(みぎわ)とも言われ、古来より人々が海と親しむ場でありました。時代を遡れば、
世の中は常にもがもな渚漕ぐ 海人の小舟の綱手かなしも 鎌倉右大臣
と百人一首に詠まれているのも見てとれます。今なお、わが国では渚を描いた作品や歌が数多く生みだされています。それほどに、日本人と渚は関わりの深いものだということでしょう。
渚は生物を育む場であると同時に、文化を育む場でもあるのです。
参考文献須田雄輔(編). 2017. 砂浜海岸の自然と保全. 株式会社生物研究社. 東京.
日本自然保護協会 > 浜を読む④〜波の花〜 (2025年1月25日閲覧)
https://www.nacsj.or.jp/2023/01/33931/
Armonies W. 1989. Occurrence of meiofauna in Phaeocystis seafoam. Marine Ecology Progress Series, 53, 305-309